《白馬視点》
黒羽君が、本当に旅行に来てくれるとは思わなかった。
父から、暑いから避暑地に旅行するかと話が上がったので、一度友人と行ってみたいと言ったのだが……どうやら家の皆は、僕に一緒に旅行をしてくれる仲の友人ができたのだと思ってしまったらしく、是非にでも行って来いと背中を押されてしまったのだ。
僕はそういう意味で言ったのではなく、そういう友人が居たら一緒に行っても楽しいだろうな、という願望を口にしただけだったのに……。
しかし、今さら言葉のすれ違いが起こっただけで、僕にそこまで親しい友人はいないと言ったら、皆を悲しませてしまうだろう。
だが、現実は厳しく、僕が旅行に誘えるほどの仲の相手はいない……いや、いなくはないが、断られる可能性の方が高い相手だ。
それでも、もしかしたらと思って、黒羽君を誘ってみた。
やはり最初は断られてしまったが、運よく中森さんの加勢もあって、黒羽君と旅行できることになったのだ。彼は中森さんに弱いから、効果は抜群だっただろう。
そして先に声をかけておいた、探偵仲間の工藤君と服部君。
彼らとの出会いはやはり事件だったが、その後も何度か一緒になる事があり、紆余曲折あったものの次第に仲を深めるようになる。
だが工藤君と服部君は、本当に親友同士、といった間柄で……僕は正直、二人の事を羨ましく思った。
ある日、その事を二人に打ち明けたら、僕にはそういう友人はいないのかと尋ねられる。
まだそこまでの仲ではないけれど、そうなれたらいいな、と思っている相手ならいると話したら、今回の旅行で僕たちの仲を深める手伝いをしてくれると言ってくれたのだ。
「深い仲と言える友人」というものに疎い僕にとっては、ありがたい申し出だった。
しかも、工藤君の父親である工藤優作さんが、車の運転手を買って出てくれたのだ。
工藤君いわく、原稿と〆切から逃げているだけらしいが……この際それは置いておくとしよう。
三人には黒羽君の事を話しはしたが、もちろんキッド関連の事は伏せている。
パーキングエリアを出てすぐ、服部君から貰ったおやきを食べる黒羽君に目をやった。
いつも思うが、彼が食事をしている様子は、貯食行動をとるリスのような小動物を思い出させる。
僕が見ていた事に気付いたのだろう、黒羽君はちらりと僕を見た後、若干不機嫌そうに目を逸らしてしまった。
……でも、もしも。
もし、僕が黒羽君と親友とも言えるくらいの仲になった時、彼はどうしてあんな事をしているのか、話してくれるだろうか。
それとも、ただの愉快犯だと言って、誤魔化してしまうのだろうか。
僕が本当に、君の親友になれたら……君は目を逸らさないで、僕を頼ってくれるのかな。