*つきあってる白快を、甘ったるい感じに。
キス描写あり、いかがわしい台詞もちょこっとあります。
すっかり人の気配が無くなった、静かな教室内。
体が糖分を欲していた事に気付いた僕は、市販の十二個入りのチョコレートを購入し、それをつまみながら明日の予定を確認していた。
「おっ、いいもんみっけ」
いつの間に僕の背後に来ていたのか、黒羽君が横からスッと手を出して、僕のチョコレートを盗んでいく。
「こら。現行犯で捕まえるよ?」
「やってみろよ、ヘボ探偵」
黒羽君は小生意気な口調と笑顔でそう言いながら、さらにもう一つチョコレートを盗んでいき、ぺろりと口の中に放り込んでいる。
若干呆れつつも立ち上がり、僕より一回り小さな彼を、対面する形で抱き寄せた。
「はい、確保」
「捕まっちゃったー」
捕まっておきながらも、どことなく楽しそうなのは僕が本気ではない事と、この程度なら簡単に逃げれるという余裕からくるものだろう。
「それじゃあ、慰謝料を貰おうかな?」
「がめついやつ」
相変わらず小生意気な事を言う口を、僕の口で塞いだ。
やや軽めに触れたそれは、お菓子のように柔らかく、とろけるように甘い。
「……ミルクチョコレート味だね」
「オメーだって同じ味だろ」
同じお菓子を食べていた者同士で口づけをすれば、そりゃあ同じ味になるだろう。
黒羽君はそう言いたげに僕を見上げているが、位置的に上目遣いになってしまっているのが、なんとも可愛らしい。
ふわふわの癖のある髪を撫でながら、擦り寄るように顔を寄せた。
「白馬って、ホント大型犬みたいだよな」
「黒羽君は子猫のようだよ」
「ネコパンチでもくらわせてやろうか?」
「可愛い肉球の痕を付けて、マーキングでもしてくれるのかい?」
「オメーの言い方、なんかやらしいよなー」
言い合いながらも、黒羽君は僕の腕に収まったままでいてくれる。
細くしなやかな彼の体に触れていると、きちんと食事を摂っているのかが心配になってしまうくらいだ。
「明日から連休だけど、予定はあるかい?」
「特に何も」
「そう。じゃあ気まぐれな黒い子猫を餌付けしようかな」
「高くつくぜ?」
「かまわないよ」
そう言いながらもう一度、今度は絡めるように口を塞ぐ。
二回もキスを許してくれるなんて、今日の子猫はそうとう機嫌が良いようだ。
「……ん…………ふぁ……長いっての」
「嫌だったかい?」
「しつこ過ぎると、嫌われるぜ?」
「それは困るね」
普段は彼に、嫌われているのか避けられているのか、というような態度ばかり取られるから、今日のように甘い時間を過ごせるのは、とても貴重だ。
さすがに三回目をしたら、がっつきすぎだと怒ってしまうだろうか。
それでも、もう少し黒羽君を堪能したくて、彼を抱きしめている腕を少し下げ腰に手を当てたら、さりげなく止められてしまった。
「白馬のえっちー」
「今更だね」
「誰か来たらどーすんだよ」
「そうだね、いっそ見せつけてしまおうか?」
「えー……見られて興奮するタイプ?」
「実際にやってみたらするかもしれないけど、やった事がないから分からないよ。でも、黒羽君の可愛い姿は独り占めしたいから、やっぱり見せたくないかなあ」
「どっちなんだよ」
「そういう君は? キスの時とか抱き寄せられている時とか……している時とか、見られたい?」
言い過ぎた、と気付いたのは、突き飛ばされた後だった。
数歩分だけ向こうに行ってしまった黒羽君は、真っ赤になった顔を半分隠しながら、怒った顔でこちらを見ている。
「な、なに言ってんだよ!! 変態!! 白馬鹿!!」
その勢いのまま、鞄を持って教室を飛び出して行ってしまった。
せっかくいい雰囲気だったのに、勿体ない事をしたと後悔しつつ、こういう所は猫っぽくて可愛い、とも思ってしまう。
しばらく時間を空けてから、明日からの連休にうちに遊びに来ないかとメッセージを送ってみたものの、「行かない」という返信が来てしまった。
これは機嫌を損ねてしまったな、と思いながらも「君の食べたがっていた高級チョコレートを取り寄せてあるよ」と返してみる。
さて、子猫は釣れるかな?