*ご注意
・呪いでヤンデレ変態気味になった白馬君が居ます。
・不穏要素もあり。
↓ 本編 ↓
「……はいはい、ハズレハズレっと」
今日は十五夜、一段と美しい満月にビッグジュエルをかざすも、残念ながら何の反応も見られなかった。
「はぁ……お月見ボーナスくらい、あってもいいんじゃねーの?」
ぼやいたところで仕方なし。
今しがた手中に収めてきた宝石は、月の光を浴びてキラキラと輝いているだけだった。
面倒だし返却係の探偵連中でも来てくれねーかな、なんて思いながら空を見上げていたら、ビルの階段を上がってくる足音が聞こえる。
音からして間違いなく大人だ、名探偵ではないなと思いながら、振り返ると……。
「見つけましたよ、キッド」
「おや白馬探偵、今晩は。今宵のショーはもう終わってしまいましたよ?」
「いいえ、まだ終わっていませんよ。君が僕に捕まるというエンディングが残っていますから」
「そんなシナリオは存在しませんね」
「ありますよ。そして後日談として、罪を償い更生し社会復帰した君は、僕の助手として末永く傍に居てくれるんです」
「……ますます存在しませんね」
「僕は君を大切にすると誓います。どんな悪意に襲われようとも、君を守る盾になります。君が心に溜め込んでいるものを吐き出すなら、喜んで受け皿になりましょう。だから……どうか僕の手を取ってください」
……いやそれ、容疑者の身柄を確保しに来た奴が言うセリフじゃねーな!?
どっちかって言うと、むしろ結婚したい相手へのプロポーズみたいな……って、なんでだよ!?
「白馬探偵が何をお考えかは存じませんが、私は捕まるわけにはいきませんので……」
「心配しないでくれ、君が全てを語ってくれるなら、君の目的を果たす協力もするし、君を付け狙う毒虫どもを叩きのめして駆除してあげるから」
んん!? なんか変じゃね!? 白馬ってこんなに口の悪いやつだったか!? いや嫌味っぽい事は元々言ってたけどさ!!
というか、毒虫って多分あの組織の連中の事だよな!? あいつらの事知ってんのかよ!?
「大丈夫、怖がらないで。君の両方の姿を知っている僕なら、他の誰よりも君を理解できる。僕以外の探偵や警察になんて、絶対に捕まらないでくれ。君は僕の、僕だけの、僕のもの……」
いやいやおかしいおかしい!! どう贔屓目に見ても、白馬の様子が普通じゃない!!
意味不明すぎるけど、さすがにほっとくのはまずいかと思い、警戒しつつも近づいてみる。
「……白馬?」
声をかけた瞬間、ありえない速さで詰め寄られて、両腕を掴まれた。
しまった、と思ったが時すでに遅し。今更ダミーの腕に変える事も出来ず、手錠をかけられるかと身構えたのだが。
「そうだ、このまま閉じ込めてしまえばいいんだ。君は白がよく似合うから、真っ白な部屋を用意しよう。純白のウェディングドレスにベールを付けたら、素敵な花嫁さんだ。僕の鳥籠からうっかり出てしまわないように、白い手枷と足枷と、リード付きの首輪もつけてあげるね。君が寂しくて死んでしまわないように、毎日たくさんたくさん可愛がってあげるから」
ヤバいヤバいヤバい。マジで急にどうしたんだよこいつ!?
その発想も十分怖いけど、遠慮なしで掴んでくる力の入りすぎてる手と、完全に光が宿ってない目が超怖い。
どうやってこの場から逃げようかと頭をフル回転していたら、先ほどよりも荒い音を立てて階段を上がってくる足音が。
「キッドぉ!! ここかー!!」
相変わらずよく響く中森警部の大声に、白馬の手が一瞬だけ緩んだ。
その隙を見てなんとか逃げ出し、白馬から十分な距離をとると、今日の獲物だった宝石を中森警部の方へと投げる。
「こちらはお返しいたします!! それでは!!」
慌てて宝石を受け取る警部の姿を確認したら、こちらも若干慌てて夜空へと飛び去る。
もうすでに崩れ落ちそうになっているポーカーフェイスを、これ以上保っていられるものか。
……本当、何だったんだよ、一体。
今までも白馬と対峙した事はあったけど、今日のは本気でダメなやつだろ。ヤバすぎるというか、正気じゃなかったというか。
あのまま誰も来なかったら、逃げ出すどころかマジで拉致監禁一直線だった気がする……中森警部ありがとう、愛してる。
しかし、白馬のあの様子……なんか、呪われてるというか、そんな感じの雰囲気だったような気もするな。
何とか無事帰宅した俺は、呪い関連に心当たりがありそうな人物に連絡を取った。
彼女から聞いたところ、今回俺が狙った宝石は少々の曰く付きらしく、心に秘めている欲望を口に出してしまう効果を持っていたらしい。
ただ、口には出すけれど、それを叶える力があるほど強いものではなかったから、注視はしていなかったという。
今回白馬がおかしくなったのは、予告時間前から宝石の傍に居た事に加え、十五夜の今日は特に月の魔力が強かった事、不思議の国のイギリス帰りだった事から、他の人以上に影響が出たのだろうという見解だ。
まあ、つまりは。
白馬がおかしかったのは主に宝石と月のせいで、あいつの強い欲望は俺に関することだったから、俺から離れた今はおそらく落ち着ている可能性が高い。
いや、ちょっと待て。心に秘めている強い欲望って話だが……あいつなんて言ってた?
拒否して忘れたいところだけど、残念ながら俺の頭は、一字一句間違えずに完璧に覚えている。
……うん、無理だわ。あいつどういう趣味してんだよ!? いろいろ大渋滞すぎるだろ!? せめてどれか一つに……いやどれもねーわ!!
明日学校で顔を合わせるのが嫌すぎる……あいつ休まねーかな。
しかし次の日、白馬はいつも通りだった。
昨日の事も覚えていないのか、事件そのものの話題は出しても、ビルの屋上の件についての言及はしてこない。
もしかしてアレ、記憶が無くなるタイプのやつだったとかかな。あの状態のまま急に正気に戻るとか無理だもんな。
きっとそうだと気楽に考えていた俺は、気付く事ができなかった。
いつも通りの穏やかな白馬が、俺を見てた時だけ目に光が宿っていなかった事に。