《工藤優作視点》
爽やかな朝の山中を走る車の中には、我々しかいない。
先ほどまでのフランス人の姿を脱ぎ捨て、助手席で遠くを見つめているのは、自分と瓜二つの人物だ。
「今回の旅行は、どうでしたか」
少しばかり意地の悪い質問をすれば、一息おいて返事が返ってくる。
「まあまあ、かな」
あくまで平静を保ったままの声色と表情は流石のポーカーフェイスだが、きっと内心では非常に名残惜しいと思っているのだろう。
赤の他人としてあの子に合う事は、今回が初めてというわけでもないだろうに。
流れていく夏の景色を背景に、一瞬だけ左側を見てすぐ、視線を前に戻した。
完璧に作られた表情の奥に、見てはいけない寂しさが見えた気がしたから。