03


「ねえちょっと!! あそこに居るの、高校生探偵の工藤君じゃない!?」
「隣の子は西の服部君だし!!」
「じゃあその向こうの子って、ロンドン帰りの白馬君!?」

 ほーら、やっぱり。
 俺の予想通り、あの三人はパーキングエリアの注目を独占状態でキャーキャー言われている。
 それに……。

「あの人もしかして……小説家の工藤優作さん!?」
「えっ、私、大ファンなんだけど!! サイン貰えないかしら……」

 年代が上の紳士淑女から人気なのは、やはり工藤の親父さん。
 こんな事になるだろうと思って、一足先に車を降りておいてよかった。
 今あの中に俺が入ったら、間違いなく「お前は誰やねん」状態になるに決まっている。なんて居たたまれない、可哀想な俺。
 なので用を足してからおやつ代わりのわさびソフトクリームを買って、そそくさと車に戻ってきたというわけだ。
 名前のインパクトのわりに、純粋に美味いなこのソフト。いや、アイスにわさびをぶち込むって言う発想自体がスゲーけど。
 そんな事を考えつつ外の様子を見ていたら、若干よれよれの白馬が戻ってきた。

「……おや、黒羽君。もう戻っていたのかい」
「下手に外に居て、揉みくちゃにされたくねーし」
「そうだね……まさかここまでとは……」

 どこかで聞いたようなセリフを吐く白馬を横目で見ると、今ので若干疲れたのか、車のシートにずるりともたれ掛かっていた。

「……君があの有名な純白の衣装を着て出ていたら、もっと凄かったかもしれないよ?」
「俺はキッドじゃねーっての。……というか、どういう状況なんだよ、それ」
「僕たちに確保されて、移送中とか?」
「無いから」

 相変わらずしつけーな、と心の中で悪態をついて、ふと気づく。
 そういえば、なんで白馬はあんなに必死に俺を旅行に誘ったんだ?
 いくらホテルの予約を四人分で取ったとはいえ、事前に連絡すれば一人分キャンセルくらい出来るだろうし、頭数がどうしても必要ってわけじゃないだろう。
 それに東西探偵の事は探偵仲間だって言ってるけど、年齢も考え方も近いんだし、けっこう仲良くなってるみたいだし、別に友達って言ってもいいんじゃないか?
 ……あれ? そうなると俺が来る意味、本当に無かったんじゃね?
 あの時は青子の事もあって、思わず了承しちまったけど……もしかして白馬のやつ、俺を嵌めたんじゃねーか!? 探偵三人に父親も居れば、俺を確保できるとでも!?
 ……いや、大丈夫だ、落ち着け俺。
 今回は周辺にビックジュエルの情報は無かったし、キッドの衣装もトランプ銃も家に置いてきてる。
 道中でマジックをやるつもりも、その準備もしていないから、今の俺はただの旅行中の高校生でしかない……現行犯で捕まえるのは無理だぜ。ざまあみろ。
 まあでも、注意しておくに越した事は無い。白馬が三人に、俺の事をどう伝えてるか分かったもんじゃねーからな。

「はあ……疲れた」
「初っ端からこんなんとか、かなわんわ」
「やっぱり、変装をしてくればよかったかな」

 そうこう考えてるうちに、白馬と同じように疲れた様子の三人が戻ってきた。
 流石にこれ以上の長居はよくないと判断したのだろう、工藤の親父さんは、早々に車を走らせて高速へと戻っていく。

「ん? 黒羽、自分なに食っとるんや?」
「これ? わさびソフトクリーム」
「……美味いんか?」
「けっこう美味いぜ。服部こそなんだよ、その饅頭」
「これは「おやき」っちゅう郷土料理やで。中に野菜やらなんやら入っとるんや」
「ふーん?」
「一個やるわ。適当に詰めてもろたで、中はなんや分からんけど」
「ありがと」

 そう言って渡されたおやきを割ってみると、中から野沢菜が出てきた。
 服部は白馬や工藤にも同じようにおやきを渡しているが、味噌やあんこの匂いがしたから、本当に適当に詰めてもらったみたいだな。

「これが友人同士で旅行している感じ……いいものですね」

 白馬は笑いながらそう言うが、俺としてはちっともよくない。
 あいつがどういうつもりかは分かんねーけど、俺は何があっても捕まらねーからなと意気込み、野沢菜のおやきにかぶりついた。