昨晩の大騒ぎから一夜明け、俺たちの部屋はなかなかの惨状になっていた。
 目が覚めた時、どうやら俺はアルフォンスさんの抱き枕代わりにされていたようで、それはもうしっかりとホールドされていた。
 起こさないように抜け出そうとしたのだが、俺が動いた事で目が覚めてしまったらしい。
 少し眠たそうだが、相変わらずの人懐っこそうな笑顔で、俺の頭を撫でている。

「おはようございマス、カイト」
「おはよう、ございます……」

 なんでだろう。よく知ってる人というわけじゃないのに、なんだかすごく懐かしいような気持ちになる。
 こんな風に大人の人に、ストレートに子ども扱いされる事だって、何年ぶりの事だろう。
 なんとも言えない気持ちでいると、他の三人も次々に起きだしてきた。
 まだ眠そうにしている工藤と服部はともかく、白馬はなんであんなすごい顔でこっち見てんだ。あいつ低血圧だったっけ?
 不思議に思っていると、アルフォンスさんは工藤の親父さんの様子を見てくると言って、自分の部屋へと戻っていった。
 すると、すかさず白馬がこっちへやって来る。

「黒羽君……まさか、彼になにかされたりしていませんよね?」
「はぁ? なんだよ、なにかって」
「いえ……何も無かったのなら、まあいいんですが……」

 煮え切らないような態度の白馬は、頭を抱えながら洗面所の方へと向かって行った。変なやつ。
 そしてその様子を見ていた工藤と服部は、苦笑いで顔を合わせていた。

 ……でも、二泊三日の旅行も今日で終わりか。
 思い返してみると、探偵たちに警戒したり、黄色い声に居たたまれなくなったり、アレコレ頭を悩ませたり、登り坂の山道を全力疾走したり、なんか変な事が起きたり、動物たちに癒されたり、アルフォンスさんの抱き枕にされたり……いや、碌な事がなかったな?
 動物たちと遊んだり、遊歩道を散策したりするのは楽しかったけど……普通旅行って言ったら、もうちょっと楽しい思い出の方が上回るもんじゃないか?
 腑に落ちない気分を残したままで朝食を済ませると、工藤の親父さんがアルフォンスさんを最寄りの駅まで送っていくと話した。
 なんでも、次の目的地までは観光列車を使って行くんだそうだ。
 次の旅行で日本に来た時には、また俺たちにも会いに来ると約束して、今日のところはお別れとなった。
 少し寂しい気もしたけど、あの人にも事情があるんだし仕方ない。
 また次にあった時にも抱き枕にされるのかな、なんて思いながら、離れていく車を見送った。