動物たちに癒されまくり、色々と楽しんでいるうちにすっかり夕方になったので、俺たちはホテルへと戻ってきた。
昨日と同じように夕食を済ませた後、探偵組は大浴場へ行き俺は部屋の風呂でサッパリしたので、冷たいものでも飲んで休もうかと思ってリビングルームの方へ来たのだが……。
何故か、窓が開いている。
開けっ放しにした覚えはない……むしろ、昨日のようにでかい虫たちとご対面したくなかったから、窓も鍵もカーテンも閉めたはずだ。
まさか泥棒でも入ったか、あるいは事件か?
……いや、それにしては痕跡が無いし、荷物が荒らされた様子もない。
不気味に思いながらも、窓を閉めようとすると……。
あの感覚だ。
昼の時と同じ、引っ張られる感覚。
嘘だろ、今、誰も居ないのに。
何とか抵抗しようとしてみるも、体に全然力が入らない。
窓に近づくんじゃなかったと、後悔してももう遅い。
目の前はもうベランダだ。
夏なのに、冬みたいに冷たい風が吹いている。
「…………っ……」
体が冷えてきた。酷い寒気がする。
目の前の山の中にいる、赤く光る瞳のなにかと目が合った。
今度こそ、俺、本当に……。
「危ないデスヨ?」
誰かが俺の体を支えた。
その体温を感じた瞬間、自分にも熱が戻ってきたと感じる。
なんとか動けるようになって、ぎこちなく振り返った視線の先に居たのは……。
「……アルフォンス、さん」
工藤の親父さんの友人である彼が、何故か俺たちの部屋に居た。
俺が名前を呼ぶと、彼はニコリと微笑んで俺を室内へと戻し、窓と鍵とカーテンを閉めてくれる。
「どうしマシタ? 大丈夫デスカ?」
「…………はい……」
どうしたと言われても……むしろこの状況を、俺が知りたいくらいなんだが。
でもこの人にオカルトな話をしても、信じてくれるかは分かんねーし……。
いや、と言うか、なんでこの人ここに居るんだ?
「……あの、アルフォンスさんは、どうしてここに?」
「優作が出版社の人に見つかってしまいマシタ。日付が変わるまでに原稿を仕上げないといけないそうデス。ワタシ放置で寂しくなったので、子どもたちに会いに来まシタ」
ああ、そういえば行きの車の中で、親父さんは出版社の人から逃げてるって工藤が言ってたっけ。
で、結局見つかっちまって、避暑地に来てまで仕事に追われる羽目になったって事か。
なるほど、と納得していたら、突然アルフォンスさんが俺に抱きついてきた。
「!? あ、あの!?」
「ユザメは体に良くないと、別の温泉で教えてもらいまシタ。カイト、お風呂あがりなのに体が冷たいデス。なのデ私が温めマス」
「え、えぇ……?」
これは……良かれと思って、というやつだろうか?
外国の人ならハグなんて日常的な事だし、変な意味は無いと思うけど……。
困惑しつつも顔を上げると、アルフォンスさんは俺を見て「カイトは可愛いデスネ」なんて言いながら、ニコニコと笑っている。
いや、どうすりゃいいんだよ、この状況。
若干困りつつも、正直、嫌ではないんだよな……と思っていたら、探偵組が大浴場から戻ってきたようだ。
「あれ? アルフォンスさん、なんでここに?」
「優作が見つかってしまいマシタ」
工藤の問いにアルフォンスさんは、さっき俺に話した説明とほぼ同じ内容を三人に話す。
「……というわけデ、寂しい者同士で温めあっていたところデス」
「って、俺は別に寂しかったわけじゃ……」
訂正しようと口を開いたが、じとりとした視線を感じて途中でやめる。
何故か不機嫌そうなオーラを出している白馬が、俺たちを面白くなさそうに見ていたのだ。
「もう僕たちが戻ったのですから、寂しくはありませんよね? 黒羽君から離れて頂けますか?」
少しきつめの口調の白馬に対し、アルフォンスさんはキョトンとしてから、すぐに笑顔に戻って言った。
「ヤキモチ、デスカ? サグルも可愛いデスネ」
「なっ!? なにを……」
動揺する白馬に、ついでとばかりに工藤と服部も巻き込んで、アルフォンスさんは全員を抱え込んでしまう。
「うぉっ!?」
「なんやなんや!?」
「シンイチもヘージも、みんな可愛いデスネー!」
アルフォンスさんの勢いに流され、俺たちはわちゃわちゃになって、もう何が何だか分からないくらいだ。
でも、なんだか楽しくなってきて皆で笑い合ったおかげで、さっきまでの恐怖感はいつの間にか薄れていった。