*白→→→快の、ゆるい日常会話。
「黒羽君、この冬に何か欲しいものはありますか?」
「布団」
「布団?」
「ウール100%の、あったかい布団」
これは少々予想外だ。いや、尋ねたのは確かに僕なんだが。
今年も秋が訪れ、少しづつ寒さを感じるようになってきたこの頃。
僕は黒羽君に、今年のクリスマスのプレゼントを用意しようと考えた。
まだ時期としてはだいぶ早いけれど、もし購入するのに予約が必要だったり、時間がかかりそうな物なら早めに準備しておこうと思っていたのだ。
黒羽君の事だから、限定品のお菓子とか、マジックに使う小道具か、なにかのイベントのチケットか……と、考えていたのだが、実際に返ってきた返答は、なんと布団。
いや、布団を贈るという事自体はかまわない。
しかし、クリスマスプレゼントと言いながら、布団を手渡すのはどうなのだろう。
ラッピングで雰囲気の出せる小物ならまだいいけれど、煌びやかなイルミネーションに照らされながら、大きな布団をドンと渡すのは……シュールすぎるというか、何かのコントのようにしか見えない気がする。
「なぜ布団を?」
「今まで使ってたやつが、もうボロボロで限界きてんだよ。だから新しいの買おうと思ってんの」
「なるほど。ウール100%なのはこだわりですか?」
「いや。こないだ買い物ついでに見に行った時に、展示されてたウール100%のが温かかったから」
化学繊維の混じり気の無い、ウールだけの布団か……それはさぞかし温かいだろう。
しかし、そういったものは少々値がはるのも事実。
「予算はいくらだい?」
「セールやってたから、一万円ポッキリ」
「いつ買う予定?」
「次のバイト代が入ったら……って、なんでそんなこと聞くんだよ」
僕の質問攻めが流石に気になってしまったのか、黒羽君はジトっとした目で訝しげにこっちを見てくる。
「いや、君にクリスマスのプレゼントを贈ろうと思っていたんだよ。でも、タイミングが悪かったみたいだね」
「クリスマスプレゼントに布団……なんかのギャグ?」
「そうだね、ダメではないけれど、雰囲気としては少し違うよね」
「そもそもクリスマスなんて、もうさみーじゃん」
黒羽君の言うとおり、クリスマスに冬支度をするなんて遅すぎる。
今はまだ薄手のもので過ごせる季節でも、十二月下旬なんてほとんどの人が温かい装いになる季節だ。
「……いや、その前に。なんで俺にクリスマスプレゼント贈ろうとしてんだよ?」
「え? それはもちろん……」
言いかけて失言だ、と気づき、思わず口を押さえる。
「い、いや、なんでもないよ。気にしないでくれ」
「は? 気にすんなって言っても、オメー……」
「と、とにかく! ちょっと聞いてみただけで、深い意味は無いから!!」
黒羽君は腑に落ちない、という表情をしてはいたが、それ以上は僕に何も言ってこなかったので、一先ず良しとしよう。
さすがに理由なんて、言えるはずがない。
プレゼントを贈った時に、君に告白しようと思っていただなんて。
後日、布団は無事に買えたようだったので、予告日に対峙した時に布団の事を話したら、彼は意外にも肯定した。
しかも「可愛いヒツジさんたちは、とても優秀な毛並みをお持ちですからね」なんて返されてしまう。
だが、その時の会話をテレビクルーの音声が拾っていたようで、キッドはウール100%の布団を愛用していると広まってしまった。
翌日、キッドファンの人々は、「ヒツジさん」呼びが可愛すぎてギャップがヤバいと騒いでいたり、彼の使用している布団と同じ素材の布団を求める人が多数現れたりと、少しずれた方向の影響が出ていた。